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高松地方裁判所 昭和59年(む)87号 決定 1984年7月26日

主文

高松地方裁判所丸亀支部が昭和五七年一二月二三日被請求人に対してした刑執行猶予の言渡はこれを取消す。

理由

一  一件記録によると、被請求人は、昭和五七年一二月二三日高松地方裁判所丸亀支部において暴行、恐喝罪により懲役一年二月(未決勾留一二〇日算入)に処せられ(以下「丸亀事件」という。)三年間其の刑の執行を猶予せられた者であるが、右判決確定前に犯した殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反罪により昭和五九年一月三〇日最高裁判所で更に懲役四年(未決勾留一〇〇〇日算入)に処せられ(以下「徳島事件」という。)、この判決が昭和五九年二月二九日確定したものであることが認められ、右事実によれば、被請求人について刑法二六条二号所定の事由の存在することが明らかである。

二  ところで被請求人及び代理人は、<1>別件徳島事件については現実に刑を執行すべき事態は生じていないこと、<2>丸亀事件と徳島事件を同時審判しても現実に刑の執行を伴うような判決はなされなかつたはずであるとして、本件に同条号を適用して前記執行猶予の言渡を取り消すことは憲法三九条に違反すると主張するので、以下、これを検討する。

1  刑法二六条二号の憲法三九条適合性について

そもそも刑の執行猶予の判決は、執行猶予を継続するのにふさわしくない法定の事由が存在するに至り又はその存在することが明らかになつた場合には、その言渡を取り消して刑の執行をすべきものとして、刑の執行を一定期間猶予するという内容の判決であるから、右の法定事由が存在するに至り又は存在することが明らかになつたため、刑の執行猶予の言渡が取り消されることになつたとしても、それは、刑の執行猶予の判決に内在するものとして予定されていたことが実現したというだけのことである(最高裁判所昭和四二年三月八日大法廷決定、刑集第二一巻二号四二三頁)。そして、同条号は執行猶予の言渡を受けた者がその言渡前に犯した別件犯罪で実刑に処せられた場合を必要的取消事由とするものであるが、このように自ら犯罪を犯し実刑に処せられた者は本来執行猶予にはなじまない者であつたということができるから、もはや執行猶予を継続することはふさわしくなく、このような場合を取消事由とすることには合理性が認められる。従つて、同条号による執行猶予の言渡の取消は憲法三九条前段後半、後段に違反しないというべきである。

2  被請求人及び代理人主張の理由<1>について

一件記録によれば、徳島事件の実刑判決(懲役四年)は同事件の未決勾留を利用することにより(法定通算四七〇日、裁定通産一〇〇〇日を各算入)現実の刑の執行を伴つていないことが明らかであるけれども(もつとも、刑法二一条による未決勾留の裁定通算は裁判所の裁量に属するから、結果的に現実の執行がなされなかつたものにすぎない。)、1で検討した通り、実刑判決に処せられたこと自体によつてもはや執行猶予を継続することがふさわしくなくなつたというべきであり、右判決が現実の刑の執行を伴うものであるか否かによつては右結論は左右されないものと解する。

3  同理由<2>について

一件記録により窺われる丸亀、徳島両事件の罪質、態様等からすると、両事件が同時審判された場合に執行猶予付の判決がなされるとは考えにくく、また、両事件の未決勾留を利用して現実の刑の執行を伴わない実刑判決となるかどうかについても、未決勾留の裁定通算が裁判所の裁量とされていることから、必ずしもそうなるとも言えない。

以上のとおり、<1>、<2>いずれの理由によつても本件に刑法二六条二号を適用して丸亀事件の執行猶予の言渡を取り消すことが憲法三九条に違反するとはいえず、さらに一件記録を精査するも他に右取消を違憲、違法とすべき格別の事情も窺えないから、被請求人及び代理人の前記主張は採用することができない。

三  よつて、刑法二六条二号、刑事訴訟法三四九条の二第一項により主文のとおり決定する。

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